小学生の部

佳作

あの匂い
八幡市立美濃山小学校 6年 小森 心琴こもり みこと

「ゆっくりていねいに」
 そう自分に言い聞かせて、豆腐みたいな真っ白な紙に筆をすべらせていた。そう、習字をしているのだ。楽しくて仕方がない。だけど始める前はイヤだった。やりたくなかった。理由のせいもあるだろうか。お母さんが、
「字はきれいな方がいい」
 と言って習字教室にほうりこんだのだ。私が習字を始めたのは、幼稚園の頃だ。始めた頃は、まだひらがなも上手く書けなかった。
 これは、見学に行った時の話だ。その時はどこに連れて行かれるのかわからなかった。何をするのかもわからなかった。一つ思ったのは、
(なにするの?)
 ということだけだった。しかし、建物に入った瞬間なにかのにおいにおそわれた。進んで行くにつれその「何か」の正体がわかった。すみだった。あの黒くて手についたらタコのようにへばりついて、全然とれてくれない墨だった。でも今では、そんな墨の匂いも好きになっていた。
 部屋に入ると先生が書のお手本を書いてくれた。「どん、しゅっ」、今にもそんな音が聞こえてきそうな力強くのびのびとしていた。
(まるで筆がおどっているみたい。すごい。こんなふうに書いてみたい)
 そんな感想が次々にあふれ出てきた。その時から、私の中で何か歯車がまわりだしていた気がする。そして少しずつ少しずつ上達していって、ついに習字の階級が四段になった。うれしさが込み上げてくる。八段まではまだまだだ。だけどこれからも、八段になるという目標をもって少しずつでいいから上手くなろうと思った。
 そんなことを、考えながら書いた書は、我ながら「上達」だ。これからもどんどん上手くなっていくと心に決めた。

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