小学生の部

優秀賞

私をつむぐ相棒
明治学園小学校 5年 能美のうみにな

 すごいものを手に入れた。
 今まで使っていたクレヨンや、カラフルな色鉛筆とは違う。お菓子の丸い空き缶にまとめてさしてある、子供っぽい絵がついているものとも違う。黒くてつやつやの軸、金色で刻まれた自分の名前。私だけの鉛筆。
 小学校入学のお祝いに、鉛筆をもらった。地味で、不愛想にも見えるその鉛筆は、ランドセルよりも、もっと自分が『お姉さん』になったことを感じさせるものだった。そっと手に取り、新品の鉛筆削りに入れてハンドルを回す。思わず息を止める。ごり、ごり、ごり。出てきたのはきれいな三角形になったしん。折れないように丁寧にキャップをして、新しい赤い筆箱に、大切にそっとしまった。そして学校の始まる日を、私は心待ちにしていた。
 四月。小学生に、なれなかった。
 新型コロナの影響で全国で休校。入学式もなく自宅で鉛筆を眺める日々。桜はとうに散ってしまった。楽しみを全てあきらめるしかない時間を過ごす中、私は日記を書き始めた。
 ぴんととがっていた鉛筆は、文字を書くほどに丸みを帯びた。そのたびに削る。ごり、ごり、ごり。私が日常を書きつづるほど、鉛筆は短くなった。お姫様のように大切にしまっていた鉛筆は、使い込まれて私の相棒になった。日常のふとしたことを、私は相棒と手を取り合ってメモした。日記以外も書いた。自分の空想の世界をめぐり、形にする。どんな時も常に一緒なのは、相棒である鉛筆だった。
 あれから五年。セミの鳴き声とともに始まった小学生生活では、うれしいことや悲しいこと、悔しいこともたくさんあった。文字にすることで気持ちの整理ができたこともある。日記を書き続ける中で、短くなり、引退していった相棒は数知れない。それでも、増え続ける『私』という物語を、相棒たちは代々、私に寄り添いながら一緒につむいでくれた。
 さあ今日も、一緒につづり、つむいでいこう。私という物語、はじまり、はじまり。

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