小学生の部

大賞

カネタタキ
八幡市立美濃山小学校 6年 中野 礼寧なかの あやね

 塾へ向かう夕暮れ時に、母の運転する車の助手席にすわって、窓の外をぼんやり見ていた。すると、田んぼのいねがゆらゆらと風になびいているのが目にとびこんできた。その実った稲穂の上を、たくさんの赤トンボが、日の光をうけて羽をキラキラさせながらおよいでいた。道ばたの猫じゃらしのフサフサの穂も、日の光を浴びてオレンジ色に輝いていた。
 世の中はすっかり秋の気配がしていた。
 今年の夏は暑かった。肌を刺すような日差しと、早朝から大音量で鳴くセミたち。気がつけば空がすっかり高くなっていて、日差しも少しやわらかく感じる。そういえば、セミたちの鳴き声も聞かなくなった。夏休みが終わったと同時に、一緒に夏も終わってしまって、一気に秋がきたみたいだ。私は、タイムスリップしてしまったような驚きにつつまれた。
 母の車が塾に着くまで、ずっと外を眺めていた。オレンジ色に染まった家々の白い壁。歩道を歩く人たちの長く伸びた影。空地のまだ青々とした夏草の葉も、オレンジ色の光にけている。まるで町がベッコウあめに閉じ込められたみたいだ。
 秋はいつの間に、こんなに身近に来ていたんだろう。私はどうして気がつかなかったんだろう。秋の始まりはいつだったんだろう。きっと、夏の間から小さな秋の始まりがあって、それがたくさん集まって大きくなった時に、すっかり秋っぽくなったなあ! って気がつくのかもしれない。
 塾に着いた。歩道の植え込みから、カネタタキのかすかな鳴き声がした。
 「秋はもう始まってるぞ!」って。

戻る
@無断転載はご遠慮ください。