「もう夏か」
中学生になってから、私は夏のはじまりを学校の校門から昇降口の間にある桜並木で感じるようになった。
私の学校は校門をくぐってすぐ、50メートル以上の長い桜並木があり、その両脇には様々な種類の植物が植えてある。
晴れの日、植物が濃い緑に染まり輝く。両脇の桜の木はトンネルのように連なっていて、そこからは力強いセミの鳴き声が私を歓迎してくれる。青々としたにおいが鼻をくすぐる。目で、耳で、鼻で初夏の訪れを感じる。こんなに体で夏を感じることのできる場所はあまりないだろう。
桜並木をしばらく進んでいくと、硬式テニス部の私は左に見えるテニスコートをつい見てしまう。オムニコートの砂が太陽の光できらきらしているのはとてもきれいだ。放課後の部活動で気持ち良くアタックをきめる、ダブルスでペアの子と協力して楽しくゲームをする、などとシミュレーションをしていると自然と頬が緩む。
そんなことを考えているとあっという間に桜並木を抜けている。そして、今日も頑張るぞ、と気合を入れて昇降口をくぐるのだ。
しかし、雨の日はより夏らしさを感じられるだろう。
雨の日、晴れているときに輝いていた葉は雨でいつもより生き生きとして見える。青々とした植物のにおいは雨と混ざってより強いにおいを放っている。頭上の桜の葉が傘に当たる音を不規則にするのが面白い。雨音にも負けないくらい大きな声で変わらず鳴いているセミに少し圧倒される。
その様子にうっとうしさを感じつつ、いつものようにテニスコートを見るとコートの砂が雨水を吸収しているのがわかる。放課後の部活がテニスではなく筋トレや素振りに変わってしまうことを考えると気分が沈む。
そんな日は桜並木がいつもより長いように感じる。やっと昇降口につくと、入り口で友達が待っている。友達の顔を見ると雨の日でも楽しい休み時間の雑談があることを思い出して沈んだ気持ちは吹き飛ぶ。
プールにお出かけ、夏休みなどこれから待っている夏の楽しいイベントに思いをはせる。そんなうきうきとした気持ちを最大限に感じさせる大泉の初夏の桜並木が私は大好きだ。