中学生の部

佳作

大人のはじまり
静岡大学教育学部附属島田中学校 2年 鈴木 寧々すずき ねね

 うるさいな、分かってるよそんなこと。私はイライラをこらえてギッと歯に力を入れる。早く寝なきゃいけないとか、片付けしなきゃいけないとか、母さんに言われなくても。宙をにらみつけて耐えて、ベッドに入って「ムカつく」とつぶやく。
 私は多分、反抗期だ。なんでもかんでもイラつく。母にも姉にも父にも、自分にさえも。怒りとか、情けなさとか、そういう感情をぐっとため込んで、寝ることで発散している。
 ある日もそうだった。数学の問題集を解いていた。分からなくて、姉に教えてもらう。すごく単純な計算ミスだった。なんで、なんでこんなとこで間違える。ムカつく。あーもう自分が情けない。くやしい。屈辱くつじょく苛立いらだちち、混ざりあった負の感情を、ペン先に集中させて、ノートのすみをグリグリとぬりつぶしていく。「数学の計算ミス」、たったこれだけのことに、どうしてこんなに腹が立つんだろう。くやしいと思うんだろう。
 唇をんで、爆発しそうな感情をぐっとこらえていたとき、母は父に怒っていた。
「なんで共感してくれないの。私が言って欲しいことはそれじゃないじゃん」
 誰も味方をしてくれない、と怒っていた。
 それは違うんじゃないか、と思う。母さんだっていつも共感してくれない。言って欲しかったことを言ってくれない。
「母さんだって、そうじゃん」
 思わず、口に出していた。母は怒った。グチ聞いてるじゃん、話たくさん聞いてたのに。また私はいてくる苛立ちをぐっとこらえ、お風呂に入った。
 ベッドに入って考える。私は間違っていたか。そうは思わない。私は事実を言ったまでだ。誰も母の味方をしていないんじゃない。お互いに共感していなかっただけじゃないのか。母さんは、自分のことを棚に上げて、人を非難しているだけだ。でも、私も、もしかしたら同じことをしているのかもしれない。
 次の日も、母は私と口をきかなかったが、姉が私のいないうちに謝って、収めてくれた。なんで姉が、と思った。姉は何も関係なかったし、私には謝る気などなかったから。
 あれから二か月ほど経った今でもまだ消化不良で、納得できない終わり方ではある。だけど、あれのおかげで、ちょっと大人になれたような気がする。やはり誰も、自分のことは分かっていない。自分が思い浮かべる自分と、実際の自分は違うかもしれない。だからこそ、私は人と関わる。人と衝突したり、話したりすることで、自分と、人とを知っていく。それを積み重ねて、私は大人になっていく。あれは、大人への道のはじまりだった。

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