ショーウィンドウに飾られた数着の服、その中の一つと目が合った。緑と白、少しグレーの入ったワンピース、少し前を歩いていた母を呼び止めて久しぶりに物をねだった。母は潔く了承してくれた。試着はしない、なんとなく、似合わないのは分かっていたから。似合わないというよりかは、このワンピースに自分は釣り合っていないと思った。それでも、紙袋に入ったワンピースを受け取った時は、とても大きなワクワクと満足感を感じていた。私はきっとあのワンピースにときめいたのだと思う。
中学一年、十三歳の冬、自室で心躍る気持ちのままワンピースを着て鏡の前に立った私は絶望した。あまりにも似合っていない。癖毛でボサボサの髪の毛、釣り上がった眉に高い度数のメガネで小さく見える目、荒れた肌、短く色の無い爪、悲しみを越えて笑いが込み上げて来た。私がときめいたワンピースの大人っぽさや可愛さは感じられない。このワンピースが似合う理想の女性像と自分の差を突きつけられた。沈んだ気持ちでクローゼットに服をしまった私は本気で考えた。「どうしたらこのワンピースを着こなせるんだろうか」。初めて私の中で自分の外見への意識が生まれた瞬間だったと思う。
私の思い描いた理想の女性像は、清楚で綺麗な女の人だった。自分がなりたい姿の目標となるような女優さんやモデルさんを見つけて、その人と自分の違いを変えていこうと考えた。変えやすい所から手をつけてみようと思い、手始めにメガネをコンタクトにした。憧れのワンピースに近づけていると思うとワクワクした。次に縮毛矯正と眉毛カットをしてみた。くせ毛だった髪の毛はストレートになり、自分の髪の長さと黒さに驚いた。眉は形を少し変えてもらい、少しキリッとした雰囲気が優しくなったような気がした。
ここら辺でもう一度、あのワンピースを着てみた。一度目に着たときとは違う新しいドキドキする気持ちを感じ、少し期待していたが、鏡の前に立ってみるとやはりパッとしない姿だった。これは中二の真ん中ぐらいの時の事だったと思う。私がときめいた憧れのワンピースへの道は、想像よりとても長かった。その後も中三の今になるまで、肌の色や爪、メイクなど、色々なところに着眼点を置いて意識して来たが、まだあのワンピースは着ていない。
私はきっと変なこだわりを持っているのだと思う。服は着たい時に着たい姿で着るものだ。でも私はあのワンピースが似合う女の子になりたくてしょうがない。私は、ときめきを感じたワンピースによって、「なりたい自分の姿」を見つけることが出来たような気がする。憧れの姿に向かって努力をする楽しさに気が付くことができた。
いつか、自信を持ってあのワンピースで歩けたら良いと思う。