中学生の部

佳作

私のままで
市川学園市川中学校 3年 菊池 優衣きくち ゆい

 正直、私は自分が嫌いだ。自分の性格も外見も全てが嫌になる。私の願いは、〝あの子〟になること。
 同じ部活の〝あの子〟はいっつもみんなの真ん中にいる。優しくて面白くておかげで部活中は笑いが絶えない。いわゆる「愛されキャラ」ってやつ。私も小学校の頃はどちらかと言えばそういう部類に入っていた気がする。比較的、勉強も運動もできたし、実行委員も率先してやるタイプだった。だから周りには人がいたし、頼りにされていた。
 でも中学受験をきっかけにみんなとは会わなくなって、一から人間関係を作らないといけなくなった。それでも私は気にしなかった。だって私の能力があれば自然と人が寄ってきて、何となく友達もできると思っていたから。
 だけどここで問題が起きた。中学校が勉強ができて当たり前、の世界だったってこと。周りには私よりも頭の良い人がたくさんいるから、勉強について比べてめられることは少なくなった。それで私の取り柄は運動しかなくなった訳で、何としても守り抜こうとした。にも関わらず、私の努力は及ばず、結局〝あの子〟が大会に出ることになった。そして、私の最後の武器を取っていってしまった。
 私はあせった。今まで積極的に友達を作ろうとしてこなかったから、入学二年目にして友達と呼べる友達がいなかった。
 それからは〝あの子〟と比べる毎日。誰からも愛される天真爛漫てんしんらんまんな〝あの子〟とは裏腹に、嫉妬しっと屈辱くつじょくが私の中で来る日も来る日も渦巻いた。ぱっちりとした目に鼻筋の通った高い鼻、つるサラになびく髪にふんわりとした石鹸せっけんの匂い。少しでも〝あの子〟になりたくてたくさん研究した。厚いまぶたにテープをつけてブラシで色をのせていく。三年伸ばしたロングの髪もくるくるに巻いた。それでも何も変わらなかった。それでやっと目が覚めた。「あぁ、私最低だ」。思わず、心からもれる。今まで何してきたんだろう。自分の能力に自惚うぬぼれて、高慢こうまんになって、人と比べて悲観して。しまいには、違う誰かになろうとして。
 やっと気付いた自分のみじめさに打ちひしがれながら三度目の教室に着いた。そのとき、
「もしかして優衣ちゃん?」
 眼鏡をかけた女の子が私の前に来て言った。
「私○○(元クラスメイト)の友達なんだけど優衣ちゃんはすごく優しい子なんだって言ってたの! これからよろしくね!」
 その子は急いでいたのかすぐに行ってしまった。一瞬の出来事に戸惑いつつ、『優しい子』この言葉が体中をめぐる。初めて自分の性格を肯定こうていしてもらえたようで本当に嬉しかった。見た目とか人気とか関係ない。今の自分を認めて向き合って、内面を大切にしなきゃ。
 「起立、礼。ありがとうございました」
 この学校での三年目が始まったそのとき、眼鏡の奥で笑う三日月のような目を見て願った。
「私がありのままでいられる大切な友達を見つけられますように」

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