ある夏休みの日の朝。
「今日も暑いね~、嫌になるわ」
洗濯物を干しながら母が言った。
「だよね。お母さんとお父さんの方がアツアツだけど」
「どこがやねん」
弟と漫才をしながら、朝ごはんを食べた。
「しかし、本当元気になったな、葵は」
「本当に」
母と弟、私も口を揃えて言った。
「自分でも驚く位だよ。でも、立ち上がれたのは私の力だからね」
そう、詳しくは話さないが、私は数週間前まで心身共に元気がなく、学校に行けなかったのだ。
「お姉ちゃん、うざ。でもマジですごいと思う」
「でしょう。なら君に立ち上がるコツを教えて進ぜよう」
「いらね」
「黙らっしゃい。まず一つ目はね~」
という事で、少し私の演説に付き合ってほしい。タメになるはず、たぶん。
まず一つ目は、『諦める事』。弟が鼻で笑うのが聞こえた気が……いや、聞き間違いだろう。諦める理由は、一つ。「客観的に自分と向き合えるから」だ。理想があるが、今は叶わない。そんな時こそ理想を投げ出すのだ。すると、理想を投げ出した自分と向き合える為、今必要なものが分かる。
二つ目は、『独りにならない事』。母が静かに頷いた。しんどかった時、私はなるべくリビングにいた。理由は、『独りになれないから』だ。本当に体調が悪い時、起き上がる事すらできない自分が嫌で、悲しい音楽を聞き、泣く私の横で、弟が動画を見て大爆笑している。「うっざ」と思った。だが、気が付けば何となく笑っていた。
「成程。デリカシーの無さも役に立つな」
父は笑いつつ、拍手をしてくれた。これで、私の演説は終了した。
「まぁ、演説はこんなとこかな。どうよ」
「うーん。そんな事より、昼メシどうする? 俺、山菜蕎麦」
「え、ひ、ひどい」
家族とのこんな笑い話が時には本当に嫌だと、うざいと感じる事もある。だけど、これが私の大切なつながりで、その証拠だ。そして、気が付けば中三の夏だ。受験が控えているし、時間と学習に追われる日々が続くだろう。
また、その先の人生にも苦しい事や辛い事が沢山待ち受けているはずだ。だが、そんな時こそ私は家族に支られてきたし、支えてきた。ここには必ず、「うざい」誰かが居るから。いつもそばに家族がいるから。
「え、蕎麦?」
「今いい事言ってたのに!」
こんなうざいつながりが、いつも私の背中を押してくれている……のかもしれない。