「絶対役に立つから」
そう言われて入った教室は、とてもきびしくて、でもその中には優しさもあった。わたしは、そろばんを習っていた。
初めてそろばんを見た時は、何も分からなかった。そんなわたしに、優しく話しかけてくれた先生がいた。でもその先生は、他の人にはすごくはきびしくて、泣いている人もたくさんいた。わたしは、どなり声がひびきわたる中、ひたすら玉を動かした。近所からクレームが入るほど、とても大きな声だった。
わたしが少し大きくなったころ、ついに、初めてなみだを流した。その日の赤くなった目は、「こわい」という意味でもあり、怒りでもあった。わたしはこの日から、先生に怒りときょうふ心を持ち始めた。毎朝、そろばんの日には、「いやだなあ」なんてことを、必ず言っていた。なのに……。ここからがわたしの心の変化だ。
ある日、いつも通っていたそろばん教室がつぶれてしまった。そしてわたしは、別のそろばん教室に通う事にした。そこの先生はすごく優しくて、毎日楽しく練習をした。
そろばんの試験の日。わたしは、自信満々でいどんだ。そして、ついに結果発表。わたしは、初めて不合格だった。その事をお母さんに報告した時、なぜか、なみだがあふれた。その時、ふと、あの先生の顔が思いうかんだ。わたしが今までずっと受かってきたのは、先生のおかげなんだと、改めて気づいた。
「きびしさの中には、優しさもある」。そんな事を教えてくれた先生に、今でもずっと感謝している。
この経験を生かして、一つ一つのありがたさに気づいていきたいと思った。