たまに出向く中華店で料理を食べた後、様々なデザートの中から決まって黒ゴマアイスを注文する。冒険をしたくないなどそんな理由ではなく、ことのきっかけは僕の幼少期のほろ苦い思い出にあるのだろう。
僕の通っていた保育園には年長になるとソフトクリームを食べに行くというイベントがあった。その日の為に十種類以上もあるソフトクリームの中から、当時年長だった僕も選ぶことになった。あまり覚えてはいないが、選ぶにあたって重要なのは、やはりどれが一番美味しいかこれに限るだろう。しかし、この時僕はソフトクリームの味のバラエティもあまり知らなかったので、その時持っていた出来る限りの頭脳とメニュー表の写真の色だけで判断を下そうとした。その時、異様な物が目に入った。ピンクや緑など様々な色のソフトクリームが並ぶ中、それは黒一色。名前には黒ゴマというソフトクリームの甘いイメージとはかけ離れた文字が目に入った。それは当時の僕の多感な心を揺さぶった。迷いなくこれを選び、黒ゴマと書いた紙を提出した。
この時、事件が起こった。先生方は個人個人の選んだメニューを確認するという。「Wいちごバニラの人ー」「ハイハイハイ」。五、六人手を上げた。この調子で僕の選んだ品が言われた。
『ハイ!!』
一番声が大きかったのか、僕の声しか聞こえなかった。さあ褒めてくれと言わんばかりのドヤ顔で手を挙げると他に同志がいなかった。何人か笑っていた。いや、全員笑っていたかもしれない。これはショックがデカかった。人生初の孤独だった。
イベントの当日、ソフトクリームが手渡された。何故そうなったのか分からないが、他の園児たちは自分と一緒のソフトクリームを選んだ人と席に座り始めた。決して先生方がその配置にした訳ではないと分かっていても、前日の孤独が返ってきたようにしか感じられない。その時、より一層Wいちごバニラにしておけばよかったと後悔した。食欲もこれ以上下がらないところまで下がっていたが、食べない訳にはいかない。本当に仕方なく目の前の黒いソフトクリームを口に運んだ。その瞬間目を見開きそうになった。この時の衝撃は十三年の人生史上トップ5に今でもランクインするほどだ。それほど美味かったのである。
ドン底からの正に大どんでん返し。何の勝負かは知らないが一気に一位になった気がした。隣にいた甘熟メロン陣に自慢しまくった。帰りのバスでも家に帰っても、人という人に黒ゴマのすごさを伝えた。
あの日から八年余り、今でもアイスは黒ゴマを求む。何故なのかは自分でも分からない。本能なのか、はたまた単に食べたいだけなのか。ただ、黒ゴマアイスを食べることによって沸々と蘇々る思い出に心地よく浸っているのは確かである。