春が好きだ。まあ春といっても、ピクニックとかお花見とかそういうのじゃなくて、ゴールデンウィークの渋滞情報ばかりやってる昼のニュース番組を見ながら、母の作った季節はずれのそうめんをすするのが好きだ。
「この家、帰省とかしないの?」
という私の問いに、
「帰省も何も、親戚全員東京住民なんだけど。あとめんどくさい」
と母がテキトーに答える。この雰囲気が好きだ。
夏も好きだ。もちろん海とかキャンプとかそういうのじゃなくて、朝っぱらから冷ぼうガンガンの部屋で情報バラエティー番組を見ながら、朝食も取らずにアイスを食べるのが好きだ。
「冷ぼうと付き合いてぇー」
というテキトーなひとりごとに、
「半年後には別れるぞ」
と兄が的確なツッコミを入れる。この雰囲気が好きだ。
秋だって好きだ。お察しの通り、芸術とかスポーツとかそういうのじゃなくて、地味に多い三連休にめちゃくちゃ美味しそうな飯テロ食べ物特集をしている夕方のニュース・トピックスを見ずに、その横にある明日の天気を見るのが好きだ。
「今日の夕飯なにー?」
という無意識な質問に、
「主食は米だよ」
と母が決まった答え方をする。この雰囲気が好きだ。
冬こそ好きだ。知っての通り、スキーとかスケートとかそういうのじゃなくて、東北で大雪がどーたらこーたらやってる夜のお固いニュースを見ながら、相変わらず色合いの悪いわが家の夕飯を食べるのが好きだ。
「さみい」
という口ぐせのようなひとりごとに、
「夏に冷ぼうと付き合ったからだろ」
と兄が忘れかけていた夏を思い出させるようなツッコミを入れる。この雰囲気が好きだ。
春が、夏も、秋だって、冬こそ好きだ。ニュースを見ながら、家族と楽しく話すのが好きだ。
「私、季節が好きな訳じゃなくて、家族が好きなだけだわ」
というエッセイを書いている途中に思わず言ったひとりごとに、
「なにそれ嬉しい」
と母がめずらしく普通の受け答えをした。この雰囲気がやっぱり好きだ。