中学生の部

佳作

パンマ
麗澤れいたく中学校 1年 永井 伶旺ながい れお

 「好きな動物は何?」、K君が何の前触れもなく僕に聞いた。僕は何となく「パンダ」と答えた。すると、K君は、「僕は馬。大きくなったら、パンダと馬をかけ合わせて、新しい動物をつくろうよ」と言った。それからしばらくの間、僕とK君は、パンダと馬をかけ合わせるとどんな動物ができるのか、色は? 名前は? 歩き方は? と様々に想像をめぐらせた。
 僕が通っていた小学校は、新しい小学校で、僕が入学したときには、新入生のほかには、二年生と三年生しかいなかった。当初、僕らの学年は約四十人だったが、大人の事情だろう、二年生になるころには十五人ほどになっていた。その後何人かの仲間が加わり、卒業時には二十人を超えていたが、なんだか取り残されたような不安感を共有した十五人は特別な仲間だった。
 K君も僕もこの取り残された十五人のうちの一人だった。小学二年生の頃、僕は、家庭の都合で引越したため、路線バスと電車を使って通学しなければならなくなった。幸い路線バスは通勤する祖父と一緒であったが、電車は一人で乗らなければならず、とても不安だった。
 ある朝、祖父とともに路線バスに乗ると、K君が一人掛けのシートに座っていた。今考えれば、友人ならお互いの住んでいる場所や通学手段を知っていて当たり前だと思うが、幼い頃の僕らはそんなことに興味がなく、K君が僕の家のすぐ近くに住んでいることも、同じ通学経路であることも全く知らなかった。
 僕は、うれしくなって、「K君」と呼びかけた。K君は、最初は少し驚いた顔をしたものの、すぐうれしそうな顔になった。この日から、僕とK君との楽しい通学が始まった。
 K君は、いつも僕が思いつかないような発想をして、すぐにそれを実行した。それは、良いことばかりではなく、むしろいたずらの方が多かったかもしれない。例えば、路肩に残った雪の中に携帯電話を埋めて壊してしまったり、珍しい石を見つけるとかじったり、と挙げればきりがない。僕はいつもそんなK君に驚かされ、ハラハラしつつもK君といると面白くてしょうがなかった。
 K君の口から、「パンダと馬」の話が出てきたのも、そんな楽しい通学時間のときだった。二人が決めた名前は「パンマ」だ。確か、色や歩き方、泣き声、えさまで、いろいろなことを想像したり考えたりした。そして、K君は「パンマ」を作るには、どうやら生物学者になればいいらしいから、二人で生物学者になろうと言い出した。すっかりその気になった僕は、母に、「将来は生物学者になって『パンマ』を作る」と宣言した。
 あれから四年以上経ち、僕らは別々の進路を目指し始めたが、K君と話せば、いつでもあの頃の自分に戻れる気がする。

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