中学生の部

優秀賞

しんどい時こそ…
八幡市立男山東おとこやまひがし中学校 3年 小杉 集治こすぎ しゅうじ

 人という生き物。それは自分が疲れている時、あるいは何かにイライラしている時ほど周りが見えなくなるものだ。当然のことである。
 大人の人なら一度は経験したことがある受験。成績に伸び悩んでついイライラしてしまい、気付いたら二時間以上っている時計に目がいかなかったり。すぐ隣に助けを求めている人がいるのに自分の作業に必死になって気付かなかったり。この世界はそんな視野が狭い人々であふれていると思う。もちろん僕もそのうちの一人。しかし、そんな中でも周りに気づかいができる視野の広い人が存在していることをあなたは知っているだろうか。
 これは何人かの友人と以前USJに行った日の帰りのタクシー乗場での話だ。電車を降りて改札を抜けた先に待っていたのは突然のゲリラ豪雨。家までは歩いて十五分の距離だが、相談の結果タクシーで帰ることに決まった。そうしてタクシー乗り場に向かうと、そこには結構な行列ができていた。仕方ないと思いながらもその行列に並んだ。並ぶこと一時間ぐらいだろうか。ようやく前のお年寄りの順番となり、そこにタクシーがやって来た。すると突然後ろを向いてそのお年寄りは言った。
「どうぞ、先に乗って帰ってください」
 お年寄りが声をかけたのは自分たちではなくその後ろに並んでいた女性だった。その女性をよく見ると、片手でかさをさしながらもう片方の手で赤ちゃんを抱いていたことに気付いた。次に女性のお腹に注目するとお腹がふくらんでいた。おそらく二人目の子どもだろう。当時僕たちは荷物が多く一時間前後待たされていたこともあり、すごくイライラしていたし当然疲労もたまっていたはず。そうとはいえ後ろにどんな人がいるかに全く気付かなかった自分自身が情けなかった。
 女性は驚きながらもお年寄りと僕たちにお礼を言ってその場を去っていった。それで終わりだと思ったその瞬間、お年寄りは僕たちの後ろに並び始めた。たしかにお年寄りは自分の判断で僕たちを飛ばして女性に順番をゆずった。つまり、順番的に次のタクシーに乗る権利があるのは僕たちだということ。おそらくそのお年寄りはそう考えての行動だったのだろう。さすがに僕たちも若者なので先に行ってくださいと言い、軽くおじぎをした後、お年寄りは次のタクシーに乗っていった。
 イライラするし早く帰りたいと思う僕たちの気持ちは大半の人が共感してくれるだろう。しかしそう思っていたのはみんな一緒。そんな中で弱い者に気づかいができる、周りが見えていたお年寄り。本当にカッコ良かった。初めに述べた通り、自分が苦しい時に周りが見えないのは意外と一般的なこと。だからこそ、疲れている時、イライラしている時ほど、周りに気づかいができる人になりたいものだ。

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