中学生の部

佳作

とげくんと旅立ち
八幡市立男山東おとこやまひがし中学校 3年 金本 椿きんもと つばき

 「お母さん! ウーパールーパー飼いたい!」
 小学校二年生のときだ。周りの子は犬や猫、ハムスターなど、多種多様な生き物を飼っていた。そんな中、私が一際ひときわ心を奪われた生き物とは「ウーパールーパー」であった。
あのあどけない表情や顔横の繊細せんさいにゆれ動くピンクのひらひらがかわいくてかわいくて仕方がなかった。
 どうしてもウーパールーパーを飼いたかった私は毎日毎日、母と顔を合わせるたびにウーパールーパーについて熱弁した。するとさすがに母も折れたのか「じゃあ明日ペットショップ行こか」と言ってくれたのだ。「やっとあのウーパールーパーを飼える!!」と興奮した私は姉にこのことを話してしまった。これが失敗だったのだ。姉はウーパールーパーの画像を見るやいなや「どこがかわいいん?」と全否定。さらに「ウーパールーパーって水なくなったらトカゲみたいになるらしいで」と一言。あいにく私の母はトカゲ類が大の苦手であった。姉の言葉を聞いた途端、母は手のひら返し。「やっぱりペットショップはやめとこ!」。先程も記したように当時私は小学二年生。天国から地獄へ落とされたような感覚にひたすら泣くことしかできなかった。
 そんな私を見てあきれたのか母がある提案をした。「ぬいぐるみじゃあかんの?」。正直言うと嫌だった。本物のウーパールーパーからぬいぐるみのウーパールーパー。天国から地獄とまではいかなくてもそれなりの落差である。しかし、少しでもウーパールーパーを感じられるのならと「じゃあぬいぐるみ買って!」と承諾したのであった。
 数日後、ぬいぐるみが届いた。あのときは渋々だったが実際に届くとそれなりにうれしい、それが小学二年生である。ぬいぐるみは思っていたよりかわいく、大きかった。私はそのぬいぐるみが大のお気に入りとなり「とげくん」と名付けた。その日から遊びにいくときもごはんを食べるときも寝るときもいつでも私ととげくんは一緒だった。
 そして月日は流れ、今、私ととげくんは一緒にはいない。さすがにこの年になってもぬいぐるみと一緒に生活するわけにもいかず、中学校に上がると同時に二階の物置きにもっていってしまったからだ。しかし、とげくんはこの数年間で私に大切なことを教えてくれた。それは「愛する」ということだ。私は末っ子でペットもいなかったから自分から何かを愛したことがなかった。そんな私にとげくんは「愛する」ことのすばらしさを私の毎日を豊かにすることで教えてくれたのだった。
 これからの人生、様々な人や物に出会い、それらを愛したいと感じることもあるだろう。もしそうなったら、とげくんが教えてくれた基礎を大切に自分なりに愛を成長させたいと思う。それができる時が来たら、その時が私のとげくんからの旅立ちなのだろう。

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