中学生の部

優秀賞

素朴な草原
麗澤れいたく中学校 1年 腰塚 彩月こしつか さつき

 私の大好きな遊びは冒険だ。私のいう冒険は、地図もコンパスもなし、当てもなく自転車をこいでいく。そして、なんとなく気になった道があったら、そっちに曲ってまたまっすぐ行く。何がおもしろいのかも自分でも良くわからない。だけど、そうしているうちに、なぜか知っている道に戻ってくるから不思議だ。
 この前もいつものように冒険をしていると、草原にたどりついた。小学校の校庭くらい大きな広い草原だった。木一本ない素朴な草原だった。私はこれを見たとたん、
「わぁー」
 とつい、感動の声がもれてしまった。何もないこの草原に、自由を感じた。何にもしばられていない身軽さを感じた。
「いいなぁー」
 私はこの草原がうらやましくなった。堂々としていて「いいなぁ」と思った。私は小学生のころ、先生にも一目おかれるような優等生だった。私の心の草原にも、自分の特技や自信の木や花が強く根を張っていた。でも、それは小学生までだった。今まで何もしなくてもデキル子だった私は、そのまま中学生になった。すると、その木や花は日に日に元気がなくなって死んでいった。周りについていけず、自信という名の太い幹を持った木も、中学校生活という風で倒れてしまった。何もなくなってガランとした私の心の草原は、小さくなっていった。でも、この草原は自信を持っているように見えた。広々とした土地全体で自分のことをアピールして、堂々としていた。私は草原の草が風にふかれて、波のようになっているのを西の空へ沈んでいく太陽に背を向けて見ていた。山に帰っていくカラスの声で自分のいる世界に引き戻されて、その日はあわてて家へ帰った。
 少し日があいて、私はふとあの草原に行きたいと思った。けれどほぼ偶然でたどりついた場所だ。自分の意志でそこへ行けるはずがなかった。あの日の記憶をたよりにがんばってみたが無駄だった。もう、あの草原には行けないかもしれない。でも、あの草原が私の中で生きつづけている限り、私は何も怖くない。あの草原が、
「大丈夫、堂々としていれば、いつかまたキレイな花が咲くよ。少しずつでも、良いものを積み上げていけば、大木が育つよ」といってくれている気がするから。私の心の草原に花が咲いたら、あの草原にも花が咲くかな。

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